急増する高齢者の住まいと虐待防止;最近の報道から考える

分類  :特集 高齢者虐待防止法改正の意義を改めて考える
題名  :急増する高齢者の住まいと虐待防止;最近の報道から考える
著者  :野口 博文
所属  :読売新聞東京本社編集局社会保障部
収録  :高齢者虐待防止研究 2016 [vol.12/No.1]
頁   :19-22

抄録:

 2015 年,系列の複数の有料老人ホームで暴言や暴行,その疑い事例が相次いで発覚した.また,東京都北区の高齢者向けマンションでは,不当な身体拘束が虐待と認定された.高齢者の住まいが多様化し,急増している中で起きた虐待には,高齢者虐待防止法の趣旨への理解が不十分なケースもあった.虐待発生の芽を摘むには,同法の趣旨の徹底を含め介護職員の教育の充実による質の向上と,それに見合う待遇改善が欠かせない.

Key Word:高齢者虐待,住まい,無届ホーム,1億総活躍,介護人材

Ⅰ.相次いで発覚した高齢者虐待

 「入所者 3 人転落死 川崎の老人ホーム」.読売新聞の朝刊社会面に,衝撃的な見出しが載ったのは 2015 年 9 月だ.川崎市幸区の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で 2014 年 11 ~ 12 月,入居者の男女 3 人(80 ~ 90 歳代)が相次いで転落死していたと報道されたのが,一連の問題発覚のきっかけとなった.この問題が報道された後,同ホームでは別の入居者の女性(80 歳代)が職員から虐待を受けていたことが判明した.女性の家族がビデオカメラを設置したところ,食事の介助を担当する職員が女性の首を絞めたり,頭を平手打ちしたりする場面や,「うるせえばばあ」などと,ののしる様子が映っていた.川崎市は監査の結果,2015年 12 月 21 日,同ホームを運営する「積和サポートシステム」に対し,市への介護報酬請求と入居者の自己負担分の請求を,2016 年 2 月 1 日から 3か月間停止する処分を行った.転落が連続して発生したほか,介護職員が,入居者に対し,暴行や暴言などの虐待を複数回行い,しかも,施設の管理者が把握しておらず,対策を講じていなかったことが処分の理由だった.

 ところが,問題はこのホームにとどまらなかった.同ホームのほかに,大阪や名古屋などの系列の 5 施設で,入居者の首を絞めたり,未使用のオムツを入居者の頭に乗せるなどの虐待の発生が判明した.入居者の尊厳にかかわる重大な人権侵害にもかかわらず,オムツを入居者の頭に乗せる行為が虐待に該当するという認識が施設長になかったという.親会社の「メッセージ」では,こうした問題が報道された計 6 施設以外でも,系列施設を調べたところ,入居者への暴行や暴言などの疑いのある事例が,2 年で計 81 件あったことが判明した.第三者調査委員会の報告書によると,系列の有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の計 275 施設に対し,アンケートを実施した結果, 2013 年 4 月~ 2015 年 11 月までに,延べ 53 施設で虐待の疑い事例があった.最も多いのは「著しい暴言や心理的外傷を与える言動」の 40 件で,「不当に財産を処分したり,財産上の利益を得たりする」が 17 件,「外傷が生じたり,生じる恐れがあ ったりする暴行を加える」が 16 件あった.(本文の一部)

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