大会長挨拶

本学会が設立して12年が経過しました。平成12年に児童虐待防止法、平成13年にDV防止法が施行され、本学会設立3年後の平成18年には高齢者虐待防止法が施行され、平成24年には障害者虐待防止法が施行され、虐待4法が整備されました。児童虐待防止法、DV防止法については、施行後、実情を踏まえてより適切な対応が可能となるよう複数回の改正がなされていますが、高齢者虐待防止法については、施行当初、3年後の改正が約束されていたにも関わらず、現在に至るまで一度も改正されていません。高齢者虐待防止法設立に向けて後押しをした実績を持つ本学会としては、改正を求めて活動を継続しています。

わが国の高齢者虐待件数は、法律による周知をもって潜在していた虐待が顕在化することもあり、養護者による虐待も、施設従事者による虐待も毎年増加の一途でしたが、養護者による虐待については平成22年をピークに、その増加にややストップがかかっています。高齢者虐待対応の体制構築、ネットワークの強化、現場での実践の積み重ね、また虐待研究の蓄積等による成果であることは間違いありません。一方で近年、施設従事者による虐待は急激に増加し、貧困ビジネスと絡んだ虐待問題等も浮上してきています。また在宅においては、重篤事案(死亡事例)の検証制度の構築やセルフ・ネグレクトへの対応を保証する法的根拠を求める声もあり、高齢者虐待防止法の改正はもちろんのこと、様々な課題に対応できる専門職のスキルの向上や、虐待防止のための地域包括ケアシステム構築が喫緊の課題であるといえるでしょう。

本大会は、「高齢者虐待防止~助けを求めない人への支援~」をテーマとしました。在宅という密室で介護する中で助けを求めず家族が孤立していくことや、セルフ・ネグレクトの高齢者が「困ってない」と援助を拒否することが高齢者虐待につながると捉え、“助けを求めない人”への支援が虐待防止に重要であると考えたからです。本大会では、支援を拒否するセルフ・ネグレクトの実態・課題、高齢者本人と養護者の意思決定支援の課題、認知・判断力が低下した認知症高齢者のための地域連携の課題などから、対応するための効果的な支援方法や予防するためのまちづくりについて考えます。一方施設においては、施設職員が利用者から受けるハラスメントの問題もあり、利用者との信頼関係を構築し支援を受け入れてもらうために、組織におけるリスクマネジメントにも焦点を当てます。また新たな課題であるヤングケア・ダブルケアについては、助けを求める方法がわからず疲弊している若い介護者の実態から、虐待予防として支援のための具体策を模索していきます。

在宅においても、施設においても、高齢者と養護者の意思を尊重したうえで、助けを求めない人に手を差し伸べることができ、潜在する高齢者虐待を早期に発見するだけでなく予防できる社会の実現を目指していきたいと考えます。またそのような課題を、立ち位置の異なる人々で共有し、ディスカッションできる機会を提供したいと思っております。

なお、第16回蒲田大会は、2019年9月7日(土)にJR京浜東北線蒲田駅からバス約4分、東邦大学看護学部大森キャンパスで行います。多くの皆さんのご参加を心よりお待ちしております。

第16回日本高齢者虐待防止学会 蒲田大会大会長 

岸 恵美子(東邦大学看護学部)