シンポジスト
滝沢 香 たきざわ かおり
日本高齢者虐待防止学会理事・法制度推進委員会委員長。1988年弁護士登録。2021年度から日本弁護士連合会高齢者・障害者権利支援センター・センター長。東京弁護士会高齢者・障害者の権利に関する委員会委員。日本弁護士連合会貧困問題対策本部副本部長。高齢者虐待防止法施行後、医療経済研究機構、認知症介護研究・研修仙台センター、日本社会福祉士会、東京都福祉保健局高齢者虐待事例分析検討委員会等の高齢者虐待に関する研究事業に委員として関与。「セルフ・ネグレクトの人への支援 ゴミ屋敷・サービス拒否・孤立事例への対応と予防」(岸恵美子教授編)、「高齢者虐待防止法活用ハンドブック」(日本弁護士連合会編)執筆。現在、西東京市の高齢者虐待防止連絡会委員。
講演内容
高齢者虐待防止法は2006年4月1日に施行され、施行後3年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとするとの付則が設けられていた。
施行後3年を経た後には、国会内で議員勉強会が設置・開催され、当学会法制度推進委員会では、この勉強会におけるヒアリングに向けて2010年2月10日付で、高齢者虐待防止法改正案要綱(改訂案)をとりまとめ、同勉強会に提出するとともに、当学会内でも法改正についての議論を進めてきた。
その後に障害者虐待防止法が制定・施行されるとともに、各種調査研究事業においても法改正の必要性が言及されてきた。現時点において、改めてどのような法改正が必要かについて整理をすることが必要になっている。
この間、法制度推進委員会では、2022年3月20日に会員ミーティングを開催し、会員各位からもご意見をいただき、2010年改正案要綱、関係各法、調査研究事業の成果を踏まえて、現時点における法改正案(以下「叩き台案」)を用意し、当学会ホームページに掲載し、会員からの意見を募集した。
これらのすべてについて立法改正が行われることが望ましいが、議員立法として成立して、施行後15年以上にわたって法改正がなされなかったことを踏まえると、法改正を実現するためには、いくつかの項目(重点項目)に絞り込んだうえで、で厚生労働省や国会議員・政党等の関係各所への申入れを行うことが効果的ではないかという指摘もなされている。
また改正を求める項目については、調査研究等をもとにした根拠となる立法事実を指摘することも必要であり、この点で、会員各位の助言・協力を期待するところである。
重点項目の絞り込みについては、①障害者虐待防止法における規定との整合性(身体拘束を虐待として明記、医療機関についての規定、市町村・都道府県の各障害者権利擁護センターの役割の明示、通報義務についての規定の違い等)や、②高齢者虐待防止法施行後に顕在化した課題(セルフネグレクトへの対応、養介護施設従事者の限定列挙規定に該当しないサ高住、その他の居住施設、重篤事案等についての自治体での検証作業の根拠等)、および③現場が抱える困難や法が適正に機能する上で必要な対応(養護者の範囲、立入調査の要件、養介護施設従事者虐待の通報における「過失」の削除等)などから、立法事実の明示が可能なものや、法改正へのハードルなどを踏まえて、足立大会で議論を進めたい。
国は、今年度、「市町村・都道府県における高齢者虐待・養護者支援の対応について」(国マニュアル)の改訂に関わる調査研究事業等も設定している。直ちに立法改正が実現できない項目もこれらの研究事業を経て国が何らかの運用指針を示すことも期待される。
養介護施設における虐待事案が続々と判明し、介護職員の低劣な労働条件が問題化している、一方で、介護保険法の改正等による負担増や給付削減により、再び介護の責任は家族に重くのしかかっている。虐待を予防し、適切な対応がなされるためにも、当学会として法改正の実現のために果たす役割は大きいと思われる。
座長
池田 直樹 いけだ なおき
1949(昭和24)年生、上本町総合法律事務所所長、1976(昭和51)年3月京都大学法学部卒業、1986(昭和61)年4月大阪弁護士会登録弁護士、1993(平成5)年から2002(平成14)年3月まで日本弁護士連合会人権擁護委員会委員、2004(平成16)年4月から1年間、大阪弁護士会人権擁護委員会委員長、2000年4月から 大阪簡易裁判所調停委員、2008年4月から大阪府精神医療審査会委員、2012年日本高齢者虐待防止学会理事長、海外の高齢者障害者の介護、虐待防止の取り組み他、権利擁護活動の視察(アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリア、韓国)、国際会議招聘(北京、ソウル、バンコック)、「頭と心にしみる法律講座‐法律を知れば福祉のいまが見えてくる」月刊ケアマネジメント2001年1~12月号連載、「Q&A高齢者虐待対応の法律と実務」共著2007年7月学陽書房、「隔離・収容政策と優生思想の現在」共著2020年12月批評社