分科会 韓国における高齢者虐待の対応状況と課題
『韓国の高齢者虐待対応状況』
張 允楨 チャン ユンジョン / JANG YUNJEONG
韓国慶南大学 社会福祉学科 副教授
職歴
2008年9月~慶南大学 社会福祉学科 副教授
社会活動
2010年4月~長期療養保険等級判定委員会委員
2004年4月~2008年7月 おおさか介護サービス相談センター 専門相談員
2017年4月~慶尙南道 マサン医療院301ネットワーク委員
学歴
2008年3月 大阪府立大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程修了
2004年3月 大阪府立大学大学院社会福祉学研究科博士前期課程修了
研究業績
<論文>
「高齢者虐待に対する社会的支援体制の韓・日比較に関する研究」張允楨『人文社会21』12(1),1867-1882,2021.3
「ファジー理論を利用した高齢者虐待に対する社会的介入の意識構造及び水準の分析」張允楨『韓国知能システム学会論文誌』,28(3),301-319,2018.6
<学会発表>
張 允楨(2019)「日本における認知症支援体制に関する研究」韓国社会福祉学会
黒田研二・ 張 允楨(2019)「日本と韓国の認知症に対する政策動向の比較分析」日本認知症ケア学会
張 允楨(2018)「韓国における高齢者虐待防止施策の動向及び体制」日本高齢者虐待防止学会
講演内容
人間は誰もが尊厳をもって生活し、自分らしく生きる権利を有している。しかし、世界の多くの国では、高齢者の尊厳を損ない、権利を侵害する高齢者虐待が社会問題として表面化され、その対策に急がれている。韓国も例外ではない。韓国では、高齢者虐待に関する専用の法律が存在しないが、1981年に「老人福祉法」が制定されており,2004年の「老人福祉法」の改正で初めて老人虐待が明確に定義され、これを根拠に虐待対応への専門機関である地域老人保護機関(以下、老人保護専門機関)を相談通報窓口として対応がなされることとなった。老人保護専門機関は広域市及び道レベルで設置されており、2021年現在全国に34か所である。また、2008年には長期療養保険制度が施行され、老人福祉法とともに長期療養保険法に基づいて高齢者虐待に対応することとなった。本分科では、まず、韓国における高齢者虐待の実態について概観してうえで、高齢者虐待防止体制及び課題について考察する。
まず、韓国における高齢者虐待の実態に関しては、中央老人保護専門機関が毎年全国34か所の老人保護専門機関からデータを集計し公表しており、ここでは「2020老人虐待の現状報告書」をもとに述べる。韓国では高齢者虐待が年々増えつつあり2005年2,038件であったのが、2020年には6,259件と報告された。韓国の場合、虐待事例に関しては3つの類型に分けて対応しており、その中で、緊急事例は165件(2.6%)、非緊急事例は3,923件(62.7%)、虐待の恐れがある事例は2,171件(34.7%)であった。また、2020年通報された虐待事例のうち、再発した件数は614件(9.8%)であった。虐待が発生した場所によってその状況をみると、家庭内で起きた虐待は5,505件(88.8%)であり、生活施設、利用施設、病院など施設での虐待は754件(12%)であった。
前述したように、韓国では高齢者虐待について主に老人保護専門機関が対応することになっており、法律上高齢者虐待における自治体の責任は明確にされていない。また、老人保護専門機関は広域レベルで設置され、地域に密着した機関ではない。このような状況から韓国では虐待の早期発見及び防止に向けての地域ネットワークづくりが容易ではない。また、老人保護専門機関を増やすことでより積極的に虐待に対応する方針であるが、単なる量的拡大より、2018年から導入したコミュニティケアシステムの中で包括的に取り組む必要がある。すなわち、コミュニティケアシステムの中で老人保護専門機関の役割と機能を議論した上で老人保護専門機関を含めた新たな体制を模索するべきである。
一方、施設における虐待防止体制にめぐっては、老人保護専門機関による調査への拒否、虐待判定における指標の妥当性、行政処分において適用する法律(社会福祉事業法、老人福祉法、老人長期療養保険法)など、主に関連する規定や法律上の問題について議論されている。しかし、施設における虐待は突然発生するものではなく、不適切なケア、不適切な施設・事業所運営の延長線上にあることを認識し、施設内における組織的取り組み、ケアの本質といった視点からアプローチする必要がある。
水上 然 みずかみ つづる
神戸学院大学総合リハビリテーション学部 社会リハビリテーション学科 准教授
2011年より、神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科勤務。高齢者福祉論を教える。1996年に大学卒業したのち、精神科診療所でソーシャルワーカーとして勤務し、認知症や統合失調症の方への訪問活動などを主に行う。その後、大阪市立介護老人保健施設おとしよりすこやかセンターで、支援相談員として高齢者とその家族の支援を行う。
現在は、認知症高齢者の権利擁護を研究テーマにしており、特に市町村における高齢者虐待を防止するためのシステムづくりの研究に力を入れている。
座長
池田 直樹 いけだ なおき
一般社団法人日本高齢者虐待防止学会 理事長
上本町総合法律事務所 所長
1949(昭和24)年生
1976(昭和51)年3月京都大学法学部卒業
1986(昭和61)年4月大阪弁護士会登録弁護士
1993(平成5)年から2002(平成14)年3月まで日本弁護士連合会人権擁護委員会委員
2004(平成16)年4月から1年間、大阪弁護士会人権擁護委員会委員長
2000(平成12)年4月から2016(平成28)年3月まで大阪簡易裁判所調停委員
2008年(平成20年)4月から2014(平成26)年3月まで大阪府精神医療審査会委員
2012年(平成24年)日本高齢者虐待防止学会理事長
海外の高齢者障害者の介護、虐待防止の取り組み他、権利擁護活動の視察(アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリア、韓国)、国際会議招聘(北京、ソウル、バンコック)
著書 「頭と心にしみる法律講座‐法律を知れば福祉のいまが見えてくる」月刊ケアマネジメント2001年1~12月号連載、「Q&A高齢者虐待対応の法律と実務」共著2007年7月学陽書房、「隔離・収容政策と優生思想の現在」共著2020年12月批評社
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