教育講演 『高齢者の人権を守るケア -きらくえん38年の実践とめざすもの-』

講師プロフィール

市川 禮子  いちかわ れいこ

1937年 神戸市生まれ 
1974年 尼崎市委託事業「ひかり保育所」開設、所長 
     社会福祉法人(以下、社福)立花福祉会「ひよこ保育園」設立 
1983年 社福「きらくえん」入職 
     特別養護老人ホーム(以下、特養)「喜楽苑」施設長代行 
1988年 施設長、法人理事 
2001年 理事長就任 

兵庫県下に「喜楽苑」「いくの喜楽苑」「あしや喜楽苑」西日本初の全個室ユニットケアの新型特養「けま喜楽苑」、同「KOBE須磨きらくえん」等5つの特養を開設。ほかにもサービス付き高齢者向け住宅やケアハウス、グループホーム、在宅福祉サービス等々を多数運営。職員数は800人余。 

法人の理念を「ノーマライゼーション」と定め、運営方針を「人権を守る」と「民主的運営」とし、38年間現場でこれらの具体化に努めてきた。 

また、国や自治体の福祉関連の委員会委員や大学の非常勤講師、他法人の役員等も務める。著書は「つなぐ-高齢者の人権を守って四半世紀」「ひと・いのち・地域をつなぐ-社福きらくえんの軌跡」ほかブックレット、共著多数。 

2003年度「朝日社会福祉賞」。その後、「兵庫県功労者賞」「兵庫県社会賞」受賞 

役職員と共に虐待などが発生しない組織風土づくりと「福祉は平和でないと築けない」を合言葉に努力を重ねている。 

講演内容

 社会福祉法人「きらくえん」は、現在兵庫県下5市に特別養護老人ホーム(以下、特養)を運営。それぞれの特養敷地内・近接地にはケアハウスやグループホーム、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)等を併設。ほかにもデイサービスやショートステイなど多岐にわたる在宅福祉サービスを展開している。また制度外の事業も複数運営。職員数はパートを含め約800人余である。 

 法人理念は「ノーマライゼーション」である。デンマークのバンク・ミケルセンが自国の1959年法に起草した理念である。バンク氏は第2次世界大戦時、デンマークに侵攻したナチに抵抗し強制収容所に収監されていたが、戦後帰国し、公務員として障害者福祉に携わる。当時の障害者施設を視察した彼は「私は戦後再び強制収容所に出会ったのです。」と、障害者施設の非人間的な扱いに怒りをもちノーマライゼーションを提唱したという。どんなに重い障害があろうとも、人間として当たり前の人間らしい“普通の暮らし”を保障するべきだという意である。 

 当法人は加えて「福祉は平和でないと築けない」、平和の対極にあるのは戦争である。戦争の教訓から生まれたこのノーマライゼーションは、平和を希求するという意も込められていると理解し、38年間、全役職員がその具体的実践に努力してきた。現場ではノーマライゼーションをどんなに重い障害があっても“地域の中でひとりの生活者としての暮らしを築く”としている。 

 そして、理念を具体化するための運営方針は、1.人権を守る、2.民主的運営とした。1については「自分の人権が守られずして他人の人権は守れない」と入居者や利用者はもとより職員の人権も守ることを明確にした。2は1の人権を守るために会議を大切にし、常に運営も民主的に進めることに加えて「普通の生活」イコール「暮らし」は地域の中で営まれるものであるから、常に地域と共にあること、入居者自治会や家族会の活発な活動を求め保障すること、などである。 

 また、5つの特養の建物は、それぞれ個性的である。ハード(建物・環境)ソフト(ケアと暮らしのあり方)を見直し続け、常に、人生の完成期を迎えている高齢者の暮らしはどうあるべきかを追求してきた変遷をハードに込めたためである。 

 1983年開設の「喜楽苑」は、“下町のノーマライゼーション”を合言葉に地域諸団体との連携を図り、入居者の自由な生活をつくり出すこと、夜の居酒屋通いやふるさと訪問等に取り組んだ。 

 1992年開設の「いくの喜楽苑」は、制度より10年早く全室準個室化とユニット化を実現。過疎の町の伝承の盆踊りを復活させた。 

 1997年開設の「あしや喜楽苑」は、「福祉は文化」を合言葉に広い地域交流スペースを設け、ギャラリーでの個展、オーケストラの定期演奏会をはじめ、クラシックコンサートやジャズコンサート、著名人も含めた講演会を再三開催。地域の文化の拠点をめざした。地域の自治会あげての、ボランティア活動は毎日行われ、実数は350人を超えている。 

 2001年開設の「けま喜楽苑」は、西日本初の個室・ユニットケアの新型特養として国の制度より2年早く開設。ハードのありようがいかに入居者の生きる意欲を促進するかを学んだ。開設後数年で実数2万人の見学者を迎えた。 

 2012年開設の「KOBE須磨きらくえん」は、国の制度に則った個室・ユニットケアの新型特養である。敷地が広いので、ノーマライゼーションビレッジ=多世代共生のまちと称し、サ高住や保育園、地域の人たちが集う会議室やレストラン、ケーキショップなどを併設。地域住民との活発な交流をめざしている。 

 講演では、上記5苑の取り組みについてパワーポイントを使い詳しくお伝えし、僭越ながら虐待とは無縁の組織風土にある当法人の取り組みの意味をともに考えてみたいと思う。 


座長プロフィール

中辻 朋博 なかつじ ともひろ

立命館大学 産業社会学部 発達福祉コース(社会福祉士課程 1期生)卒業後、馬場記念病院へ入職。
医療ソーシャルワーカーとして、急性期・リハビリテーション・慢性期・在宅領域等を担当。
介護保険制度開始時、居宅介護支援事業所へ異動。管理者と現業の介護支援専門員、各種介護保険事業の立ち上げを行う。
法人本部や保育園の管理業務等を経て、現在は特別養護老人ホームの施設長や居宅介護支援事業の管理者として勤務している。
公益社団法人大阪介護支援専門員協会 理事/事務局長、自治体の福祉・介護関係の専門部会で委員を拝命している。

社会医療法人ペガサス
http://www.pegasus.or.jp/

特別養護老人ホーム アリオン
http://windhorse.or.jp/home/index.html


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