シンポジウムⅠ 介護サービスの在り方~利用者本位の介護経営~

『虐待防止のための職員教育の仕組み 』

雨宮 潤美  あめみや ますみ

SOMPOケア株式会社 教育研修部 理事部長 

職歴:2010年特定施設介護職員として勤務。その後、特定施設での管理者、西東京地域のエリアマネージャーとなり主に事業所運営管理、職員教育指導を担当する。 

2018年事業所運営サポート部門にて「カスタムメイドケア」展開の担当責任者として従事。2019年より教育研修部部長に就任。教育主管部門として、職員、管理者全般の教育・育成を行う。 

講演内容

虐待発生をどう防ぐのか。介護者にとってケアが難しい状態に陥った際に、その背景にある利用者様の問題に目を向け、対応方法を身に着けることが、不適切なケアの回避に繋がります。特に認知症高齢者に対して適切な介護を提供するには、介護者側が行動障害を軽減させる能力を高めていくことが必要です。 

そして、私たちがもっとも大切にしなければならない「高齢者の価値、社会的役割、尊厳の保持」この理念を理解し、適切なケアの実践をおこなうための教育方法について、お話させていただきます。 


『感情労働の心理分析と対策-施設職員による虐待防止に向けて-』

吉田 輝美 よしだ てるみ

名古屋市立大学大学院 人間文化研究科・教授

老人ホームで介護職員と生活相談員として13年間勤務しました。当時の私は、利用者からの言葉に傷ついたり、上司との関係で悩んだりしていました。そこでスーパーバイザーのもとでストレス対処法を学び、まずは自分の心を元気にしなければいけないことに気づきました。その経験から、人をケアする援助職が人とのかかわりにおいて心が傷つく状況を何とかしたいと思い「ケアする人のケア」として、介護現場向けストレス対処法の研修を提供してきました。

近年は、養介護施設従事者等による虐待防止にむけたストレスマネジメントや、ケースメソッドによる高齢者虐待防止研修を展開しています。高齢者福祉を専門領域とし、とくに介護人材育成をテーマとして研究を行っています。現在は、介護技能実習生の業務習得と会話分析に関する研究を行っています。つくづく感じることは、介護現場の人材育成においては、リーダーのあり方が重要だということです。人を大切にするリーダーを育成していくことが、組織にとって必要なことだと感じています。今後は、介護現場のリーダー支援を行っていきたいと考えています。

◆資格:博士(社会福祉学)・社会福祉士・介護福祉士・米国NLP™協会認定NLP™トレーナー(No.148442)米国NLP™協会・米国NLP™協会認定NLP™マスタープラクティショナー(No.148442)米国NLP™協会・ケースメソッド・インストラクター(認定番号0130)慶應義塾大学ビジネス・スクール

講演内容

感情労働はホックシールド(1983)が提唱した概念で、「職務内容の一部として求められている適切な感情状態や感情表現を作り出すためになされる感情管理」を必要とするものです。感情労働は、①対面あるいは声による顧客との接触が不可欠。②従事者は、他人の中に何らかの感情変化(感謝の念や恐怖心等)を起こさなければならない。③雇用者は、研修や管理体制を通じて労働者の感情活動をある程度支配する。といった3つの特徴を持っています。感情労働を介護労働に応用してみると、介護現場で求められている利用者やその家族のなかに適切な精神状態を作り出す対応は、感情労働そのものと言えるでしょう。

介護労働の感情労働について、近年残念に思うことがあります。介護現場の人たちに誤解があるのではないかと感じるようになりました。「介護労働は利用者やその家族とのかかわりからストレスが発生するため感情労働だ」と話される方とお会いすることがあります。これらは間違いとは言い切れないのですが、感情労働とするには不十分であると考えています。介護労働者は、利用者やその家族とのかかわりに傷つき疲弊し、ストレスが発生する状況にありながらも、相手の中に何らかの感情変化を起こさなければならないのです。したがって、介護労働者自身の傷ついた感情などのお手当は、後回しされるか手当がなされない状況のまま介護労働に従事し続けています。雇用者や組織から介護労働者自身の傷ついた感情などの手当を受けることができれば、介護労働者は利用者やその家族とかかわり続けることができるのでしょう。しかし、一人で傷つきと闘わなければいけない介護労働者は少なくなく、さらに介護業務をストレスと感じ疲弊していくという、悪循環が起きているのではないでしょうか。そのような介護労働者は、やりがいを喪失したり無力感を抱いたりし、怒りや悲しみが湧いてきて暴言や暴力に至ることもあります。

介護現場では、相手の中に何らかの感情変化を起こすようにコミュニケーションによるかかわりが必要となりますので、介護労働者のコミュニケーション能力が重要となります。このコミュニケーションとは、単なるおしゃべりではなく、コミュニケーション技術として介護労働者に身につけて欲しいものです。技術としてコミュニケーションを使えるようにトレーニングすることによって、ストレスの予防や虐待予防につなげられるように、組織として取り組んで欲しいと考えています。そして組織においては、これら介護労働者の感情活動をマネジメントできるようなスーパービジョン体制を図り、介護労働者の精神的支援を行って欲しいところです。そのためには、スーパーバイザートレーニングが必要となります。さらに、介護労働者の感情コントロールトレーニングを行うことによって、虐待予防の取り組みが組織的になされていくと期待しています。

施設職員による虐待防止に向けて組織のトップが、自施設の高齢者虐待防止に対する方向性を明確に示しながら、感情労働の視点から取り組んで欲しいと思っています。


『成年後見人の立場から虐待防止を考える』

川村 鉄平 かわむら てっぺい

あうる司法書士法人 司法書士 

平成15年 司法書士試験合格
平成16年 関西学院大学 法学部法律学科 卒業
平成22年 兵庫県明石市にて独立開業

(所属)
兵庫県司法書士会
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート兵庫支部

司法書士試験合格後、神戸や大阪の司法書士事務所に勤務し、平成22年に兵庫県明石市で独立開業。平成23年から成年後見業務に取り組み、現在まで累計で100名ほどの後見人等を担当。当初、高齢者との関わり方や、成年後見業務についての経験値が未熟な状態で恐る恐る1件目を受託。ご本人を支援する関係者と協力しながら後見業務を遂行していき、また、後見人のなり手がいない案件など積極的に受けていくうちに、高齢者施設、ケアマネジャー、明石市など、高齢者に関わる方々から後見制度についての相談を受けることが多くなり、受託案件が増加。受託案件の中には、虐待事案もあり、後見人として虐待事案への対応の難しさに日々悩んでいる。司法書士として、また組織(リーガルサポート)として、行政や高齢者と関わる機関と協力して後見制度の普及に尽力している。

講演内容

私は、司法書士として、成年後見の専門団体である公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートに所属し、日々成年後見業務に関わっています。成年後見人として高齢者支援に携わっていると、高齢者虐待の事案と関わることが少なからずあります。特に多いのは、経済的虐待の事案ですが、その他にも身体的虐待やネグレクトなど複合的な事案に関わることもあります。私の場合は、行政が被虐待者について、市長申立で後見開始の申立てを行い、その成年後見人に就任する、という形での関わりがほとんどです。成年後見人としては、「虐待」と聞くと身構えてしまいますが、一人で解決しようとするのではなく、本人を支援する関係者と協力して、自分の役割を確実にこなすことが大切であると感じています。司法書士は、成年後見業務以外にも、市民の権利擁護を使命として、多重債務の問題や貧困問題、消費者問題などに取り組んでいます。それらの経験と知識を活かして、虐待の防止や虐待の解決に取り組む必要があると感じています。

成年後見人の役割としては大きく分けると二つあります。財産管理事務と身上保護事務です。財産管理事務とは、本人の資産を守り、その資産を適切に活用することです。身上保護事務とは、本人の意思を尊重し、かつその心身の状態及び生活の状況に配慮した上で、本人の身上面に関する契約を締結し、そのために資産を活用する、ということです。近年は、成年後見制度利用促進計画により、身上保護の重視が掲げられています。身上保護事務を適切に行うためには、本人との面会を通じて、本人の置かれている状況を確認し、また、その変化についていち早く気づくことが必要とされます。

私自身も、実体験として、本人との面会の重要性を感じた経験が何度かありました。また、本人との面会こそが虐待を防止するために成年後見人ができる一番重要なことではないかと考えています。しかし、ただ面会すればいいというわけではもちろんありません。面会を通じて、目にしたこと耳にしたことで、少しでも気になることがあったり、おかしいなと思うことがあれば積極的に施設や病院に対して説明を求めたり改善を求めたりすることが必要だと感じています。私自身は、成年後見業務に取り組み始めたころは介護施設や精神科病院に行ったこともなく、そこでの生活環境や本人に対するケアなどについての知識が何もない状態でした。そのために、素人の私が口出しをしてはいけないとさえ思っていました。しかし、今はそう思っていません。たしかに私は介護や医療についての知識はありませんが、通常の感覚として、おかしいと思ったことや、不明点があれば、本人に代わって発言し、説明を求めることが、成年後見人の責務であるからです。

成年後見制度は、判断能力が不十分な人たちの判断能力を補うことにより、最終的には、生命、身体、自由、財産等の権利を擁護することを目標としています。この目標達成のために、本人と向き合った事務を行い、本人を代弁し、本人の最善の利益を図ることが必要です。それらを達成するための行動が、虐待の防止につながるという思いでこれからも活動してきたいと考えています。


座長

池田 直樹 いけだ なおき

一般社団法人日本高齢者虐待防止学会 理事長
上本町総合法律事務所 所長

1949(昭和24)年生
1976(昭和51)年3月京都大学法学部卒業
1986(昭和61)年4月大阪弁護士会登録弁護士
1993(平成5)年から2002(平成14)年3月まで日本弁護士連合会人権擁護委員会委員
2004(平成16)年4月から1年間、大阪弁護士会人権擁護委員会委員長
2000(平成12)年4月から2016(平成28)年3月まで大阪簡易裁判所調停委員
2008年(平成20年)4月から2014(平成26)年3月まで大阪府精神医療審査会委員
2012年(平成24年)日本高齢者虐待防止学会理事長

海外の高齢者障害者の介護、虐待防止の取り組み他、権利擁護活動の視察(アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリア、韓国)、国際会議招聘(北京、ソウル、バンコック)

著書 「頭と心にしみる法律講座‐法律を知れば福祉のいまが見えてくる」月刊ケアマネジメント2001年1~12月号連載、「Q&A高齢者虐待対応の法律と実務」共著2007年7月学陽書房、「隔離・収容政策と優生思想の現在」共著2020年12月批評社


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