教育講演 「レビー小体病を識る-多彩な症状の背景とニーズの実際、介護を理解する」

演者

眞鍋 雄太 まなべ ゆうた

レビー小体型サポートネットワーク東京顧問医
神奈川歯科大学 認知症・高齢者総合内科 教授
藤田医科大学 救急総合内科 客員教授

略歴
平成13年4月~平成15年3月 藤田保健衛生大学病院 内科研修医
平成21年4月~平成23年3月 東京都医学総合研究所 神経病理 研究生
平成23年4月~平成24年3月 藤田保健衛生大学病院 総合診療内科 講師
平成24年4月~平成25年3月 順天堂江東高齢者医療センター PET-CT認知症研究センター 准教授
平成25年4月~平成30年3月31日 横浜新都市脳神経外科病院 内科 認知症診断センター 部長
平成29年4月~ 藤田医科大学 救急総合内科 客員教授
平成30年4月~ 神奈川歯科大学歯学部 認知症・高齢者総合内科 教授

資格等
日本認知症学会 専門医、指導医
日本認知症学会 専門医試験症例報告書審査委員
日本老年精神医学会 専門医制度委員会試験実施部会委員
日本老年精神医学会 医科歯科共同研究ワーキンググループ委員
レビー小体型認知症研究会 世話人
レビー小体型認知症サポートネットワーク東京 顧問医
日本補綴歯科学会 研究企画推進委員会委員
認知症と口腔機能研究会 世話人
認知症と口腔機能研究会誌 Dementia and Oral Function編集委員

講演内容

レビー小体型認知症(DLB)は、先行する認知機能障害を必須症状とし、認知機能の変動、具体的で再現性のある幻視、パーキンニズム、レム睡眠行動障害を中核的特徴に、自律神経障害や睡眠障害、抑うつ等の精神症状といった多彩な症状を伴う神経変性性認知症である。背景病理如何で臨床症状が異なり、典型的なDLB像から、一見するとパーキンソン病に伴う認知症、アルツハイマー型認知症と診断される症例まで、ウィングの広い認知症性疾患でもある。主たる病変部位の違いにより臨床像が異なることから、患者個々で症状の表現型も様々であり、治療優先順位も介護者の治療ニーズも一定ではない。この点が、診断の困難さや治療の難しさの一因となる訳であるが、DLBを専門としている立場からすると、神経病理学的な背景因子を理解し、ただ見る診察ではなく、観て、診る診察を心掛ければ、そう診断が難しい疾患とも思われない。また、治療に関しても、認知症疾患診療ガイドライン2017に明示されているように、DLBの各症状に対して患者ごとに治療すべき臨床症状に優先順位を設定した上で非薬物療法と薬物療法の計画を立て、evidenceとnarrativeを融合させた精緻な診療を心掛けることで、ある程度の治療満足感は得られるものと考える。何れにしても、患者や介護者の治療ニーズを理解した上で治療計画を行う必要があり、その為には患者及び介護者が、どのような症状に困り、かつ優先的な治療を希望しているのか、そのニーズを把握することが肝要となる。ここで疑問が生じる。では、我々医療者は、DLB患者や介護者のニーズを確と理解し、把握することが出来ているのだろうか。少なくとも、2019年に演者等が脳神経内科および精神科、その他診療科の医師に対して行った、診療科属性の違いによる患者の治療ニーズや処方内容の差異に関する調査研究では、主治医の治療ニーズの把握は満足なものでない可能性が示唆された。

そこで我々は、2020年9月より、DLB研究会所属の医師を中心にDLBエキスパート医師を選定し、エキスパート医師が所属する医療機関を受診するDLB患者及びその介護者を対象に「レビー小体型認知症の患者・介護者・医師の治療ニーズに関する研究」を実施した。詳細は既にAlzheimer’s Research and Therapy誌上に公開されているが、その結果は驚くべき内容であった。DLBを専門としている医師であっても、約5割しか患者および介護者の治療ニーズを把握出来ていなかったのである。その要因として、患者および介護者が最も困っている症状がパーキンソニズムではなく、認知機能障害や睡眠障害、自律神経障害であった場合、治療ニーズに対する主治医の理解が低くなるということ判った。同時に、患者および介護者が最も困り、かつ治療を希望している症状は「記憶障害」であり、DLBの定義からは納得しかねる実際も明らかになった。これに関しては、被治療者側の「記憶障害」に対する理解の問題、即ち、本来の「記憶障害」は、病変主座が海馬領域に存在することで生じる症状を指すが、DLBに伴う遂行機能障害や覚醒度の低下を故とする前頭葉機能障害の表現型も「記憶障害」と認識している可能性が想定された。このことは、DLBの診療strategy構築を考える上で、疾患啓発のより一層の充実が求められ、ひいては認知症への理解という命題へ立ち返る必要性に気付かされる。認知症とは何か、認知症を定義する要素は何か。認知症という概念への理解の深化が、DLB診療への理解を促し、介護者が有する葛藤の解消につながるのではないだろうか。

本講演では、神経病理学的背景からDLBを見直し、演者等が行った調査研究を基に、DLBにおける治療ニーズや介護の実際に話を展開したく思う。


座長

保科 三千代 ほしな みちよ

独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 認知症看護認定看護師

平成元年、国立療養所犀潟病院(現 国立病院機構さいがた医療センター)入職、以後精神科看護、重症心身障がい児者看護、神経難病患者の看護に従事してきた。平成22年副看護師長昇任。脳神経内科病棟での勤務において、混乱やせん妄状態にある認知症患者の対応に悩んだ経験から、十分な知識・技術を習得する必要があると感じ、令和2年認知症看護認定看護師資格を取得した。

現在、資格取得前に立ち上げた認知症ケアチーム会を更に発展させ、各病棟の事例検討会、病棟ラウンド等を通して看護師の認知症ケアに対する知識・技術の向上に取り組んでいる。

また令和3年度から開始された院内認定看護師制度において、質の高いケアが提供できる認知症看護院内認定看護師の育成・支援に関わっている。院外においては市民公開講座や看護職学習支援講座の講師を務め、看護学生への老年看護学の講師も担当している。

→大会プログラムに戻る