シンポジウム3 『地域で生きるー施設と地域の狭間からー』

演者

岩﨑 典子 いわさき のりこ

ライフパートナーかくだ山合同会社 代表
介護支援専門員、ビニールハウスの居場所marugo-to 代表

燕市の出身。結婚、子育てを経て福祉の道を志す。
介護福祉士、介護支援専門員などの介護事業所勤務を経て、ライフパートナーかくだ山合同会社を設立、自宅で暮らす方々の生活を、多方面から支える仕事をしている。
他にも認知症介護指導者、認知症ケア専門士、新潟県ホームヘルパー協議会会長、新潟県社会福祉協議会、新潟市社会福祉協議会の評議員。

「岩崎と言えばmarugo-to(まるごーと)」をキャッチフレーズとして、
これまでのご経験から、公的な支援だけでは個人の希望を叶えられないと、2018年よりビニールハウスを拠点とした居場所「marugo-to」をて立ち上げ、その代表を務めている。

まるごーとでは、病気や障害など関係なく、老若男女、様々な方々がつどい、役割、やりがい、生きがいを持って自分らしく誰もが主役になれる居場所として毎週月曜日9時半~12時(7月~8月はサマータイム16時~18時)活動している。
その活動は、2019年度の「NHK厚生事業団」、「第3回認知症とともに生きるまち大賞」の表彰団体に選ばれ、本賞を受賞。

講演内容

「ない」から「創った」地域の居場所「marugo-to」の取り組みについて 

【はじめに】私たちは「可能な限り住み慣れた地域で暮らしたい」と思う気持ちは、誰もが普通に願うことだと考える。しかし、認知症になった当事者やその家族、障害を持っている当事者、その家族、生きづらさを抱えている当事者やその家族は、誤解や間違った情報で周囲から「怖い」と思われてしまうため、身近な地域では目立たないようにひっそりと暮らしている人もいる。こうした心配をせずに、誰もが安心して暮らしていけるよう、障害や病気について、住民一人ひとりが正しく理解していくことが求められる。

【倫理的配慮】今回の発表に際し、参加者及び関係者に説明を行い、同意を得た。

【立ち上げの経緯】私(marugo-to代表 岩﨑典子)は認知症の母を介護している娘さんと、有志の仲間と一緒に、月に1回認知症カフェ「かくだ山」を開催していた。しかし、月1回の開催では悩みがあっても解決できないのではないかと感じていた。同じころ、認知症地域支援推進員から相談があり、夫が若年性認知症だという夫婦と出会った。夫は農業普及指導員として働いていたが、54歳の時、単身赴任先で倒れ搬送先の病院で「前頭側頭型認知症」と診断された。働き盛りで身体も丈夫だったが、病気を理由に職場を追われることになった。その時、奥様は私に「主人が主人らしく居られる場所が欲しい。もっと輝ける場所を作ってほしい。」と言った。

その頃、西蒲区社会福祉協議会のCSW(コミニティーソーシャルワーカー以下CSW)、ボランティアコーディネーター、生活支援コーディネーター(以下SC)もそれぞれの立場で悩みを抱えていた。私と3者で何度も話し合い、お互いの悩みを解決できる場所が「ない」なら「創った」のがmarugo-toである。行政がやらないなら私たちで創るしかないと2018年6月4日に立ち上げた。

【概要】毎週月曜日午前9時半~12時半。現在は新型コロナウイルス感染予防のため
11時半の短縮開催(夏場はサマータイムで15時半~17時半)。地域の使わなくなった農業用ビニールハウスと畑を拠点に開催している。名前の由来のとおり「誰でも利用でき、自分の好きなように過ごせる居場所」である。畑仕事や近所の工務店からいらなくなった端材を、自分たちのオリジナル商品として加工する木工作業をはじめ、オリジナルの「まるごーと賛歌」を作詞・作曲したメンバーは、自転車で一時間半かけて毎週通ってきてくれる。彼が作った歌詞にはmarugo-toの活動について書かれている。

そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一生懸命だったスタッフが離れていった。一方でコロナ禍をきっかけに新しい仲間も増えた。

【今後の課題】5年後、10年後も継続していくためのどうしたらよいか、持続可能な活動としての運営資金の調達は一番の課題である。また、共同創造の前提となる認知症のある人のみならず、支援する人が対等な関係性を持ち続けることのできる居場所づくりと情報発信の取り組みを行っていきたいと思う。できれば、もっとたくさんの方に活動を知ってもらい、同じような活動が広がっていけるようまた、誰もがそこにいていいと思える場と活動の様子を生中継配信していきたいと考えている。

【最後に】この活動を通して、人それぞれ「居場所」の考え方はいろいろだと思う。誰でも自分らしく居られる居場所を求めている。その人にとって居心地が良いと思える「居場所」は、生きていくうえで必要だと考える。


演者

村山 綾子 むらやま あやこ

魚沼市立小出病院 看護部長

1961年 十日町市生まれ 十日町在住(現在はアパート生活)4人の子育てを楽しみながら、東京・新潟市の民間病院で勤務後、28歳から県立病院にお世話になり、2年前に県立柿崎病院の看護部長を最後に県職を退職いたしました。現在は市立小出病院の看護部長を担っております。

魚沼圏域は、8年前に医療再編成が行われ、高度救急を担う基幹病院と地域密着病院(ポストアキュウ―ト・サブアキュウ―)を受け入れる当院と機能分化を行われました。地域包括ケア病床・急性期病床・療養病棟・透析・訪問看護・訪問診療・診療所3か所を管理しております。プライマリケアを中心に「健康と安全な暮らしを支える」をモットーに、”信頼・連携・向上心”の3本のクレドを心に刻み込み、市民のための病院を目指し看護管理に日夜勤しんでおります。

講演内容

地域包括ケアを支える病院としての使命 ―高齢者の医療に寄り添う―

新潟県魚沼二次医療圏では2015年から「選択と集中・機能分化と連携」を理念とした大規模な医療再編が進行している。新潟県は2021年に地域医療構想実現のためのグランドデザインにおいてさらに明確な機能分担が求める病院類型化を示した。地域で高度な医療を支える柱となる部分が魚沼基幹病院を該当させ,高度・専門医療の集中を促した。それ以外の病院は「地域包括ケアシステムを支える医療機関」と位置づけして、「救急の受け入れを整備した救急拠点病院」として県立十日町病院と南魚沼市民病院、在宅医療の後方支援機能に特化した「地域密着型」と位置付けた市民病院としてのミッションを明確にしながら取り組んできた経緯について報告する。

1 多職種連携と住民参加の拠点(地域医療魚沼学校)
地域包括ケアシステムを構築する要は「地域内多職種の連携と住民の主体的参加である」という理念の下、市民病院を学ぶ場として位置付けた取り組みを2011年から展開している。2011年から2022年度までに学校プログラムに延べ39,494人が参加し、市民病院が地域包括ケアシステム推進のための人材育成拠点になっている。

2 ACPの推進(わたしの想いノートの作成)
地域医療魚沼学校と在宅医療推進センターが中心となり2019年から「うおぬまでACPする」という地域プロジェクトを展開した。看護師・ケアマネージャを中心にACP推進のためのファシリテーター育成を進め、2022年にはACP推進ツール「わたしの想いノート」を完成させ、市民病院看護師スタッフが中心となり、市民や市内各事業所を対象に啓発活動に当たっている。

3 市民目線の医療 PA委員会(patient advocacy)の発足
このような活動と対照的に実際の院内業務においてはACPをⅮNAR取得の手段と考えていたり、EOLCにおける意思決定において患者不在であったり、当事者の合議プロセスが欠けていたり不適切な身体拘束が「安全のため」と容認されている事案が散見されたとこから、職員の意識改革の必要性を痛感し、従来のACP委員会と令和4年度新潟県看護職員認知症対応ステップアップ事業を受けた「拘束のない看護」を目指す委員会を統合させ、患者・市民目線を医療倫理的に監視し代弁できる組織として内科医2名を含む院内多職種によるPA委員会を看護部主導で立ち上げた。

4 地域連携のハブになる(PFM委員会の発足)
地域医療構想・地域包括ケアシステムは、「急性期から回復期・慢性期への医療連携」「医療から在宅福祉への医福連携の円滑化と加速」を求めている。少子高齢化した地域では老老・単身・身寄りなし世帯も多く退院調整に難渋することが多く、患者の流れの停滞は医療介護福祉の公的ベッドのミスマッチが予測される。患者の流れを改善し「必要な方が必要な場所でケアを受けることのできる地域」を目指して、2023年市民病院看護部主導で、市行政在宅介護施設・ケアマネージャの参加によるPFM委員会を発足させた。課題は山積みであるが、流れを阻害するボトルネックの検証から動き始めた。

市民病院は市民の医療介護福祉の啓発拠点であり、人材育成拠点、情報発信拠点、連携拠点である。「住みやすく・住み続けられて・住み終えられるまち」である市民病院として高い倫理観を持って推進していきたい。


演者

安樂 大 あんらく ひろし

NPO法人結縁 理事長
地域共生型デイサービスよいさ代表

平成17年 特別養護老人ホーム入職以降
グループホームや老人保健施設、居宅ケアマネを経験。
介護現場での経験の中で、安全・安心を理由に高齢者の役割や奪ってしまうような現場の実情に疑問をもつ。
また、居宅ケアマネジャーとして担当する方を訪問した際に、事業所を選択してもらおうとしたときに「どこも同じようなもんだろうからね」と諦めに似たような発言が聞かれ、残念な思いをしたことが何度もあった。
このような経験から、上越に無い取り組みを行う介護事業所を自分で始めたいと決意し、平成29年10月デイサービスよいさ(頸城)を立ち上げた。そして、令和3年に、デイサービスよいさ仲町を立ち上げた。

当法人の理念
・ 超高齢化社会において、高齢者が疾病や認知症をもっても
社会との繋がり、人と繋がり、地域との繋がりが保てるよう
ご利用者のパートナーとして活躍をサポートします。

講演内容

1.デイサービスにおける地域活動の実施状況
家事参加…調理、掃除、買い物 等をご利用者の役割、機能訓練として実施。
・ 調理作業に慣れた女性ご利用者が参加されている。
・ 麻痺のある方(50歳女性)は、調理に参加する事で自宅でも役割を持とうという気持ちが湧き、夕飯は自分が家族分を作るようになった。
・ 生活力の向上につながっていると感じる。
趣味活動…畑や花壇作り、傘を壊してのエコバック作り等、ご利用者の特技を活かした取り組みを実施。
・ 車を運転できるご利用者するご利用者はDSの利用ではない日も花壇が気になり様子を見に来られる。
地域活動…地域の商店や個人の作業のサポート活動を実施。
♦お菓子屋様との連携(お菓子のタグ付けや、冬囲い外し、庭掃除等)
♦塩の袋詰め、ドクダミ・ヨモギの収穫し野草企業様へ出荷
♦農家様の畑にて菊芋の植え付け作業の受注
♦個人宅での庭掃除 他 地域のごみ拾いや、海岸清掃など
・ ご利用者は、道に落ちているゴミを見て「また今日もゴミ拾うか!」等と苦笑いしながらはりきって活動している。
・ 若年性認知症の方も、場になじみながら徐々に参加し、刺激になっている。

2.お泊りデイサービスの実施状況
令和2年12月より開始した。開業し数年が経ち、若年性認知症のご利用者の症状が進行、介護者の負担が増加していたが、ショートステイ(SS)では拒否的言動で宿泊ができず、精神科入院は抵抗があり、苦慮される事が複数件続いた。介護者の負担が続く中で、当事業所としてできる支援をと考え、保険外の宿泊サービスを実施している。

これまでに若年性認知症の方や夜間の不眠があり他事業所では対応困難だといわれている方の対応をしてきた。素早い対応(前日の予約等)や環境調整の重要性を感じている。

3.地域活動における課題 在宅との継続性
Ds利用中は活動的だが、自宅に戻ると何もしなくなってしまい、そのギャップが家族のストレスとなった事があった。また、作業や外出が目的になってしまい、ご利用者の好みの把握や生活史、職歴等、その人の事を知り対応するご利用者中心のケアを忘れてしまいがちである事があると感じる。

大切なのは、目の前の人が何を好んで、何を不快に思い、どうしたら落ち着くかを考えることであり、その手段の一つに「地域活動」があると思っている。

4.介護事業所としての課題
・ 認知症の進行した方を対応困難だから受け入れないではなく、どう対応するか。
・ 受け入れた上で薬に頼るのではなく、介護の力でどこまで何ができるか検討する。
・ また、他職種による連携で対応できる手段を探す。それが介護の魅力に感じる。


座長

佐藤 貴規 さとう たかのり

上越市社会福祉協議会地域福祉課

平成11年に社会福祉法人上越市社会福祉協議会に入社
デイサービス、総務部門を経て、地域福祉部門に配属され、現所属15年目
現部門では上越市地域福祉活動計画(第1次、第2次)や28地域自治区を基本的な範囲とする地区地域福祉活動計画の策定に中心的に携わる。

また、地域福祉活動を主体的に進めるための住民組織である住民福祉会(全国的には地区社協や校区社協と呼ばれている)の立ち上げ及び活動支援に関わり、現在もその活動を上越市全域に広げるための取組を推進している。

福祉に関する意識の醸成や知識の習得のために、地域の住民や団体の方々、小中学校の児童や生徒などに向けて、福祉やボランティア、防災や災害といった幅広いテーマで講演を行っている。

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