法人化への期待

 西川浩之 西川浩之司法書士事務所(法人化担当)

1 現在の当学会の法律上の位置付け

(1)社団性

 一定の目的を持った人の集団を「社団」と言います。現在の日本高齢者虐待防止学会は、一定の目的のために会員が集まって活動しており、その活動は、会員(人)の集合体としての組織(団体)が行っていますので、「社団」であると言えます。

 具体的には、会員全員が議決権を有する議決機関である総会が毎年開催され、そこで学会の事業活動等の基本方針等の意思決定がされており、また、会員から納入される会費を学会として管理し、これを財源として、総会において予算及び決算の承認の手続を経ているほか、個別の具体的な事業の執行は、会員の中から選出された理事等の役員が理事会等の決定に基づき行っています。このように、現在の当学会においては、組織としての意思決定がされ、それに基づいて事業活動等を行っており、当学会は、会員個々人とは別の「構成員」と「財源」を有する団体(社団)としての実質を有しており、会員個々人とは別の「組織体」として活動しています。

(2)権利能力(法人格)

 契約等の当事者として権利や義務の主体となり得る地位を「権利能力」といいます。「権利能力」が認められるのは、生身の人間(出生時から死亡時まで)と、法律の規定によって権利能力を認められる存在である「法人」に限られています。

 現在の日本高齢者虐待防止学会は、法人ではありません。つまり、当学会は、「単なる人の集まり」、例えば「一時的なイベントのために集まった人の集団」ではなく、定款等の内部規律に基づき一定の目的を持って組織として意思決定をし継続的に事業その他の活動をしている団体ですが、法律の規定に従って法人の設立の手続をとって活動しているわけではありませんから、法律上は、権利能力を有しない存在です。このような団体を、「権利能力(法人格)なき社団」などと言ったりします。現在の当学会が「任意団体」であるというのも、ほぼ同様の意味です。

(3)権利能力(法人格)なき社団

 「権利能力(法人格)なき社団」は、文字どおり契約等の当事者として権利や義務の主体となることができない団体ですから、現在の当学会は、厳密に言えば、団体として、預金口座を開設すること(銀行と預金契約を締結すること)も、学会誌の印刷・発行のために印刷会社と契約をすることも、できません。そのため、会員から集めた会費を銀行口座で安全に管理しようとすれば、便宜上、団体(学会)の代表者(理事長)その他の構成員(会員)の個人の名義で銀行口座を開設して管理するしかないということになりますし、印刷会社との契約も、便宜上、代表者等の個人の名義で行うほかないということになります。

 学会を法人化すれば、このような曖昧な権利義務関係を明確化することができ、学会自体が対外的に契約等の当事者となって権利や義務の主体となることが法的に明確になります。

2 学会の法人化のメリット

 当学会の法人化は、当学会が構成員個々人とは別個の法人格を取得し、権利・義務の帰属主体としての地位を取得することを意味しますので、形式的には、社会における当学会の存在を明確化することを意味します。そして実質的には、厚生労働省その他の公的団体からの委託・補助等による各種の調査研究事業を実施するためには、その要件として法人格(権利能力)を有していること等が要求されますので、当学会が法人格を取得することにより、当学会が、公的な助成金を受けて公的な調査研究等の事業を実施し、対外的にその成果を公表することが可能となるというメリットがあります。

 法人化により、当学会がさらに大きなフィールドで活動することが期待されます。