新型コロナ禍における認知症

聖路加国際大学臨床教授 遠藤英俊

 新型コロナウイルスにより感染症は高齢社会に多大な影響を及ぼしている。単なる感染症にとどまらず、高齢者の日常生活や社会生活に多大な影響を与えている。認知症の人にとっても影響は例外ではない。コロナフレイルやコロナ認知症などの言葉も使われる場合もある。日常臨床において、そういう経験も多くみられる。さて高齢者虐待の観点から新型コロナの影響を考えてみる。

 もとより高齢者虐待の被害者は様々な報告があるが、約6割が認知症の人であるといわれている。コロナ自粛で、デイサービスや外出できず、家に閉じこもりとなり認知症が悪化するケースも経験する。介護事業者の過剰な自粛要請や、クラスターを発生させない恐怖感からの行動制限に繋がっている。また日本福祉大学の湯原先生によればコロナ下で、恐らく介護負担がより増幅し、介護殺人が増加しているとの報告がある。通常の日々とは異なり、加害者が妻であるケースが増えているということである。本学会として見過ごしができない事象である。介護従事者がこうした介護殺人を理解し、介護負担を軽減するように地域包括支援センターや地域行政と共に対策を強化する必要がある。そのためにも地域包括支援センターの職員の学会参加が増えることを希望する。コロナ自粛を錦の御旗に組織、施設を守るために長期間、外出や入退所の禁止がなされ、ショートステイがロングステイに代わり、家族との面会も厳しく制限されてきた。新型コロナ予防のために過剰ではないかと思えるほどに、かつ盲目的に面会制限、移動の制限がかけられている。一方家庭内虐待に関しては、コロナを理由に訪問介護員などの訪問を拒否する場合もあるだろう。周りから見えない状況が懸念され、ネグレクトや心理的虐待の増加も懸念される。さらに家族や職員が感染し、コロナ差別をうけたことも課題である。法務省のホームぺージには感染者、濃厚接触者、医療従事者に関して、誤解や偏見に基づく差別は許されないとしているが、介護サービス利用者の人権には思いが至たってはいない。我々の学会が問題提起しない限り、高齢者の人権問題は解決しないであろう。

 新型コロナ禍において感染を予防し、生命を守ることが優先されることも正しいが、一方個人の人権は置き去りにされたことは間違いがない。感染流行時のマイナス面に今後は配慮する必要がある。感染予防と人権擁護のどちらを優先するか、いまだにモニター越しにしか会えない施設も多い。厚労省のホームぺージではオンライン面会を推奨しているが、まだ導入していない施設もある。また高齢者自身や家族、医療従事者の他介護職員が感染した場合の差別も問題である。利用の制限や拒否が新聞でも報告されている場合もあるし、医療機関への入院を拒否されたり、後回しにされた場合もあるとも報道されている。高齢者虐待や高齢者差別に反対する。コロナ禍における人権擁護については課題が多く、今後の日本社会のよりよい対応や成熟性が求められる。