高齢者虐待の共依存ケース

松下年子 横浜市立大学大学院医学研究科看護学専攻

 高齢者虐待の対処困難事例の1つである共依存ケースについて、高齢者虐待にかかわる現場の皆様にご協力をいただいて調査を進めています。その中で現在みえてきたのは、高齢者虐待か否かの判断や、共依存の判断が難しいこと、ボーダーラインレベルのものが多くかつ、どこまで担当者がかかわるのか線引きが難しいこと、共依存ケースに多い養護者である息子の特徴として、無職であること、社会との関わりが薄いこと、障害をかかえていること、社会適応できていない場合が多いこと、被養護者の母親との関係性の特徴としては、息子に全面的に依存しているようにみえるが、一方で母親が息子を奴隷のようにコントロールしているといった両価的な関係性、「息子が仕事をしなくても(自立していなくとも)自分の面倒さえみてくれれば良い」「息子は何もできないから私がやってあげないといけない」といった母親の支配的かつ、依存的な認識等が掌握されました。

 また対応する上で戸惑いの背景として、母が認知症ゆえに訴えに波がある、一旦分離しても自らまた帰りたいと訴える、養護者が独自のケア方法に拘る、養護者が自分の健康生活や趣味などを捨て、全エネルギーを介護にかけている(独善的な介護)等があり、スタッフが共依存と判断した根拠としては、介護する側とされる側の両者に精神的な依存があること、スタッフの誰もが両者が離れた方がよいと思えること、一見仲が悪くみえなくとも結果的に、被養護者が不適切な介護を受けている状況があること等がありました。そして共依存ケースに対する対処としては、できるだけ第3者がその家庭に入れる状況を作る、被養護者と養護者の支援チームを分ける、とりあえず分離して被養護者が冷静になれたときに「今後息子さん(養護者)とどうしますか?」という選択を提示して一緒に考える、一度分離できたケースでは、養護者の気持ちを考慮してもう1回チャンスを作れるかを検討する等があげられました。

 一方で、次のような多くの課題も提示されています。①8050問題や介護者が相談を打ち明けられる相談支援の窓口がなく、介護者の支援者を提供できない、②職種や担当者、機関によって対処方法が異なる、③地域包括支援センターは、虐待者支援に対処するにあたって養護者は将来、地域包括が対象とする地域高齢者なので敵対できない、④現場の虐待者に対応する危機感を行政はイメージできていない(行政のように守られた機関と、施設出入りが自由な機関との相違)、⑤早期からの医療機関との連携(必要な患者情報)、⑥養護者の年代に応じてその年代に対応する機関・専門職が一緒に動く、⑦介護に没頭する息子に対して、息子と同じ立場で悩みを共有できる場の提供、家族会等の活性化等。最後に、スタッフの困難として、何が正しいのか確信をもてないこと、達成感が得られないこと、とりあえずの消息をみてもスタッフの悩みは長く続くこと等が掌握されました。

 以上より、関係性の病理ともいわれる高齢者虐待の共依存ケースに対して、判断する際の尺度開発や、具体的な対応マニュアルの作成、人材育成(求められる知識やスキル等の明確化)は必須と思われます。またコロナ禍は、家族の親密性に良くも悪くも影響し、高齢者虐待発生に連鎖していく可能性がゼロではありません。コミュニケーションや他者とのディスタンスのあり様に、変革が迫っている今だからこそ、われわれには新たな心構えが求められてくるのかもしれません。