施設内虐待を問う

柴尾慶次

 不適切ケアということを、40年近く言い続けてきた。

 ピラミッド構造を示して、その三角形の頂点に表面化する虐待を図示、その氷山の一角のような虐待事象を、モグラたたきのように叩いても、その水面下の不適切ケア、不適切な関係、不十分なサービス、例外要件を満たさない身体拘束から虐待事案は、当然のごとく浮かび上がってくるのであり、その水面下のむしろ日常のケアの見直しこそが、虐待防止の近道である、と説いてきた。

 それは小生が、介護現場にいて、不適切ケアを日常的に目撃していて、何とか良いケア、良い関係性に変えていくことができないか、悩みつつ、現場から逃げずに、解決方法を模索してきたからである。

 いま、韓国の保健社会研究院の方から、ZOOMのミーティングに誘われていて、韓国の高齢者虐待防止、とくに施設内虐待防止に関する法の見直しの研究をさせていただいている。もちろん、小生はハングルができないので、日本語でのミーティングであるが、そこでの気づきを少しお話ししたい。

 韓国の老人福祉制度をきっちり勉強してきたわけでもないので、あらためて社会や経済基盤、家族構造、家族観の違いなど無視できないが、施設内虐待防止に関して、小生の提唱してきた「不適切ケア」とは、と強く問い返されて、そういえば明確に不適切ケアというものを定義してこなかった、ということに気づいた次第である。

 だから、大変興味深く、虐待防止を再定義すること、不適切ケアの延長線上に起きる虐待、という概念整理をさせていただいている。

 不適切ケアは、5分類にもう一つ虐待分類を付加するものか、と問われてそういった誤解を与える表現なのか、と思った。それは、韓国の高齢者虐待防止に関しては、韓国の老人福祉法に規定されていて、日本のような別立ての法律にはなっていないこと。にもかかわらず、高齢者虐待については、処罰法的な色彩が強く、個人に対しても5年以下の懲役、もしくは5000万ウォン(約500万円)の罰金を科すこととし、虐待件数の増加に対し、罰則強化している。

 つまり、不適切ケアが虐待類型であれば、そのこと自体が罰則の対象となるという見解なので、明確にしておく必要がある。逆に言えば、なぜ日常的に不適切ケアが問題になるような現実があるのか、という問いかけでもある。介護保険以前は、劣等処遇の時代に一般の社会生活以下の生活水準が当たり前、と思われていたが、介護保険以降、措置から契約へのパラダイム転換後、明らかに権利意識の醸成や行政の反射的利益にすぎないとされてきた行政措置から、明確な権利構造に介護サービス提供が変わった。

 韓国においても、老人長期療養保険制度が医療保険の一部としてスタートして、従来の家族観や老人療養施設へのスティグマが、払拭されつつある中での施設内虐待見直しの契機となっている。懸け橋になって、互恵関係が築き合えるミーティングにしたい。