淑徳大学 副学長 山口光治
令和2年8月31日、千葉県は「千葉県重度の強度行動障害のある方への支援システムの構築及び千葉県袖ケ浦福祉センターの廃止について」報道発表を行いました。千葉県袖ケ浦福祉センターは、現在、重度、最重度の知的障害のある成人の入所施設( 定員90名)と中軽度から重度の知的障害のある児童等が入所する施設(定員40名)などを運営しています。設立は昭和41年7月で、千葉県社会福祉事業団に管理運営を委託(平成18 年度からはこの事業団を指定管理者に指定)し、一時期は両施設合わせて400名を超える定員で運営されていました。
ことの発端は、平成25年11月に成人施設で起きた利用者への職員による暴行死事件です。その後の立入調査で、過去10 年間で、虐待者15 人(被虐待者23 人)にのぼり、県は行政処分を行い、この問題の第三者検証委員会の設置・審議、見直しの進捗管理委員会の設置・審議、今後の検討会議の設置・検討などを行い、冒頭の結果に至りました。
第三者検証委員会の最終報告(答申)では、主な虐待の原因を「人材育成、人事配置、研修の不備」「県のチェック体制や外部チェック体制の不備」「県内各地から最重度の利用者が集中し、組織・人材ガバナンスが困難となっていた」などを挙げ、提言として県の関与の下でセンター・事業団の見直しを進めること、大規模ケアからきめ細かな支援を可能とする少人数ケアに転換するため、利用者の民間施設・地域移行などを指摘しました。
最終的に、県は重度の強度行動障害のある方が、大規模入所施設に依拠せずに県内の各地域において必要な支援を受けられるよう、民間事業者の協力のもと、市町村と連携した支援システムを構築することで、指定管理期間である令和4年度末までに廃止するという結論に至りました。
この事案は障害者施設での出来事ではありますが、高齢者施設においても他山の石としていくべきと思います。特に強く感じるのは、支援にあたる職員の技術や知識の不足、適性などが直接的に暴力行為に影響したものと思われますが、施設という集団や組織の在り方、地域(都道府県)の中で重度の強度行動障害のある方をどのように支援していくのか、あるいは排除や隔離ではなく地域の中でどのように受け入れていくのかという政策のあり方も事件の背景要因に含まれているように感じます。全国では、2000年前半に大規模な障害者施設であるコロニーの解体が進められ、地域移行が実現しているにもかかわらずです。
さて、さまざまな症状が伴う認知症高齢者の場合は、住み慣れた地域で、その一員として自分らしく暮らすことが支えられているのでしょうか、改めて問いたいと思います。